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ある夏の思い出

ある夏の思い出
 蝉の鳴き声がうるさくて目を覚ます。台風8号が吹き抜けた翌日から、途端に蝉の大合唱が始まった。それまでは、蝉も鳴かず今年はいつもとは違うのか、昨年までの大喧噪と比べ静かなのかなと喜んでいた。ところが、そうは問屋がおろさない。とばかりの容赦ない鳴き声のシャワーが降り注ぐ。

 事務所には虫かごと虫取り網が置いてある。以前は幼児用の簡易ビニールプール(特大サイズで幼児なら5~6名使用可)も置いてあった。何れもある利用者の為に用意したものである。今から5年前に、当時小学2年生のダウン症の男の子Y.O君を支援したことがあった。虫かごや網、プールはその時に支援の一環として必要と思い用意したものである。コミュニケーションを図ることができるものと思っていた。 
 
 ところが、こちらの思惑など意にも解さないY.O君。近くの公園に虫取りに出かけると、ブランコや滑り台など、遊具で遊ぶ。仕方なく(実際は喜んで?)蝉を一匹捕まえて、Y.O君に見せる。掴んで持たせようとする。怖がって持とうとしない。仕方なく虫かごに入れると、途端に蝉が鳴き始めた。その鳴き声に驚き、怖がりそれからは蝉など見向きもしなくなった。他のトンボなどもしかり見向きもしない。触ろうともしない。
 私たちが子供の頃、熱中していた虫取など興味がないのである。

 夏休みに入り、今度はプールで遊ばせてあげようと思い、朝からプールを準備する。大家さんに特別に許可をもらった事務所裏庭のスペースに、自転車の空気入れを使って膨らます。こんな大きなのを買わなければ良かったと悔やみながら、しかし喜んで遊んでくれたら。色々な思いが輻輳する。9割がた膨らまし、水道代を気にしながら水を張る。Y.O君だけでは勿体ないと思い、近所の子にも声をかける。Y.O君の自宅まで迎えに行き、用意していただいた水着や着替えを持って事務所まで戻る。早速着替えてプールに行く。小学1年生、幼児園の女の子2人が遊びに来てくれ、プールで水遊びを始めている。熱中症を心配する陽気の中、私自身が入りたいような天気、でもY.O君はプールに入らない。無理やり掴まえてプールに入れようとすると、嫌がって怒り、挙句の果てにこちらの腕を噛もうとまでする。興味もなく面白さも感じないのかと思い、仕方なく好きにさせる。事務所へ帰るのかと思いきや、水道のホースを持って、プールの中にいた女の子たちに向かって水をかけ始めた。Y,O君にとって女の子たちの反応が良かったのか、暫し水かけに熱中する。私もずぶ濡れになる。女の子も小さなバケツで反撃する。Y.O君もずぶ濡れになる。今度は喜んでいる。初めて笑顔になる。しかし、最後までプールには入らなかった。

 Y.O君を通して、支援というもののあり方を問われた気がする。
 
 利用者に即して支援を考える。と良く言われるが、虫かごや網、はたまたプールはY.O君にとって何だったのだろう。
支援する側の一方的な思い込みだけのものでしかなかったのではないか、これだけすればきっと喜んでくれる。支援も上手くいく。と勝手な思い込みで物事を進めたのではないか。私自身の傲慢さに気付かされた思いがした。

 利用者はY.O君のような障害児だけではない。様々な事情を抱えた高齢者も沢山おられる。日々接していて、支援者側の一方的な思い込みによってのみのサービス・支援になっていないか、今一度省みることが必要ではないのか。そのことを気づかされたある夏の思い出である。

 今も事務所横に虫網を、倉庫には虫かごを置いてある。使うことはないものであるが、いつも目に触れ折に触れ、私自身の介護事業・支援事業の原点を認識するものとして、自戒を込めて置いてある。
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プロフィール

【名前】
おっちゃんヘルパー
【年齢】
65歳
【一言】
≪絆≫を大事に。
ヘルパーステーション
ケアプランセンター
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